最近では、LGBTQも含めて社会が多様性を求めるようになっています。
ファッション業界もその流れに乗り始めており、障害を持つ方々のファッションについて注目が集まっています。
私が関わっている障害者の方々でも「おしゃれしたい!」と望んでいる方はたくさんいらっしゃいます。
この記事では、最新のトレンドファッションを紹介しながら、今のトレンドファッションこそ、障害を持った方々が抱える身体と心の問題を解決できる9つの理由を、医療人の視点から解説しています。
障害者ファッションの現状
昨今では、多様性が浸透する社会になってきており、障害を持つ方々も積極的に社会的に受け入れられる世の中になってきました。
障害者の方々がおしゃれできるよう、障害者のファッションショーが開催されたり、障害者用のおしゃれなブランドが立ち上がるなどの取り組みが盛んになっています。
有名なブランドであるトミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)は、障害のある方々のために着脱しやすい機能を加えたコレクション「TOMMY HILFIGER ADAPTIVE」を立ち上げていますし、
グッチ(Gucci)は、ダウン症のあるモデルとして、イギリス出身のエリー・ゴールドスタインさん(18)を起用した事が話題になりました。

2022年のミラノコレクションでは、日本人の葦原海さんが車椅子でランウェイに登場したのも記憶に新しいところです。

障害者の方々へのファッションの取り組みが盛んな事は大歓迎ですし、ファッションを通して障害者の方々のQOL(生活の質)が上がる事は、障害者の方々の人生に関わっている私としても日々心から望んでいます。
しかし、障害者へのファッションの取り組みを見ていると、医療人である前に、ただの服好きとして私個人から見ると違和感を感じてしまうのです。
確かに、カラフルでデザインもおしゃれな洋服を提供して下さっていますが…、トレンドファッションでは無いんです。
服好きの方ならわかって頂けると思いますが、服好きにとってトレンドってめっちゃ大事なんです。
それでは、なぜ障害者の方々にこそトレンドファッションを取り入れて欲しいのか?その理由をそれぞれ解説していきたいと思います。
おしゃれ好きは、なぜトレンドファッションを追うのか?

まず、おしゃれが好きで洋服に興味がある人達は、なぜトレンドファッションを追うのか?から考えてみたいと思います。
トレンドファッションを追うのは、”周囲とのつながりや共感が得られる”という理由が大きいと考えています。
周囲とのつながりや共感が得られる
ファッショントレンドは、社会の中で広く受け入れられているスタイルの流行を示すものです。
社会的に認められたスタイルを取り入れることで、周囲とのつながりや共感を得ることができます。
私自身、自分がおしゃれだと思っているトレンドファッションを、他の人も取り入れているのを見ると、
「あっ!あの人も自分と同じセンスを持っているんだ!」
と、嬉しくなります。
始めて会った全く知らない人でも、仲間意識のようなつながりや共感を感じて、話しかけたい衝動を持つ事もあります。
2023年 春夏のトレンドファッション
ファッショントレンドは、各個人の好みで「何がトレンドなのか?」が分かれるところですが、ファッション全体として大きく考えると、2023年春夏のファッショントレンドは以下のものが挙げられます。
まずスタイルとして、
- オーバーサイズ
- クロップド丈(丈の短い)のアウターやトップス
- ワイドパンツ
- デニム
- オーバー ディストレスト(ボロボロ、シワシワ、カットアウト)
- 大きいトートバッグ
- スニーカー
が、挙げられます。
カラーとしては、
- オレンジ
- レッド
- イエロー
- グリーン
- パープル
- メタリックシルバー
などの明るい色が挙げられます。
障害者こそトレンドファッションを取り入れて欲しい!

私は、障害者の方々と仕事やボランティアを通して日々お付き合いさせていただいていますが、障害者の方々こそトレンドファッションを取り入れて欲しいと思っています。
その理由は、障害として抱えている身体と心の問題を少しでも解決してもらいたいからなのです。
トレンドファッションで、身体の障害を解決する
では、トレンドファッションが身体の障害を解決できる理由を解説していきます。
オーバーサイズ
オーバーサイズが障害者の方々に適している理由は、可動域制限や筋力低下・麻痺などで身体的な制限を持つ方々にとって、サイズにゆとりがあるため、着やすく脱ぎやすいうえに動きやすいという事です。
例えば、車椅子の方や義肢・装具を使っている方は、通常のサイズの服を着ると身体の動きに制限が生じることがあります。
四肢や体幹に麻痺がある方や筋力が低下している方は、体にフィットしすぎた服は着脱が難しいことがあります。
その点、オーバーサイズは、サイズにゆとりがあるため、動きやすく、着脱も簡単になります。
ワイドパンツなどは、ウエストにゴムを使ったり、マジックテープで脱ぎやすくしておけば、急なトイレでも慌てずに済みますし、
素材の柔らかい伸縮性があるものを選べば、さらに身体への負担が少なくなります。
クロップド丈(丈が短い)のアウターやトップス
身体的な障害を持つ方や知的に障害がある方は、着脱や動きが楽な衣服が必要ですし、着替えの介助でも着脱させやすい衣服の方が助かります。
クロップド丈のアウターやトップスは丈が短く軽いため、長い丈のものよりも着脱も動きも楽で、着替えの介助をしてもらう時も楽に着替えられます。
車椅子を使用する方は、長い丈の衣服を着用すると車椅子に乗り込む際や座り直したりする時に邪魔になったり、車椅子の可動部に布が噛み込んだりして動作を妨げる事があります。
しかし、クロップド丈のように丈が短い衣服なら邪魔になることが少なく、車椅子の動作にも影響を与えにくいため、車椅子を使用している方に適しています。
視覚障害や感覚障害がある方が移動する際には、上着の裾を引っ掛ける事があります。
高次脳機能障害や知的障害がある方も、障害物に対する注意が弱くなっている方がいらっしゃいますので、やはり上着が引っ掛かるなどの危険性が高くなります。
しかし、クロップド丈のように丈が短い上着なら、引っ掛ける危険性が少なくなり安全です。
デニム
障害者の方々がトレンドファッションのデニムを取り入れることの利点として、生地が丈夫であるため車椅子や義肢・装具などに引っ掛けるような事があっても、破れたり切れたりする事が少ないというものが挙げられます。
もし、転倒や転落などしたとしても、丈夫なデニムは皮膚を守ってくれてケガを軽くしてくれます。
床を這うような動作など生地を痛めがちな動作でも、デニムは痛みにくく長持ちしますので、衣服を頻繁に買い替えたり修繕する必要が少なく、経済的な負担を減らすことができます。
今は、トレンドとして擦れたぐらいのダメージのあるデニムが流行っていますので、多少破れたり擦れたりしても、それが良い味になっておしゃれに着こなせます。
デニムの中で、シルエットを選ぶのなら、流行のルーズフィットを選べば着脱も楽です。
今年の春夏では、くるぶし丈のデニムパンツが流行りそうですので、車椅子のフットレストや車輪などの可動部に挟まる心配も少なくて済みます。
デニムはカジュアルでもフォーマルでも合わせやすく、他のアイテムとの相性もよいため、様々なスタイルに合わせることもできます。
オーバー ディストレスト(ボロボロ、シワシワ、カットアウト)
麻痺などで長い時間動けない障害者の方や、車椅子に長時間座りっぱなしを強いられる方は、洋服にシワができやすくなります。
トレンドファッションのオーバー ディストレスト(ボロボロ、シワシワ)を取り入れれば、洋服にシワができたとしても、それが逆におしゃれになるため、シワを気にしたりしなくて済むのです。
デニムパンツなどを新しく買った時に、裾上げしてもらうとしたら、車椅子を使っている方なら、お店で着替えたりするのは難しいですし、お店の人に気を使ったりして諦める事が多いのです。
でも、オーバー ディストレスト(カットアウト(切りっぱなし))なら裾上げをせず、自宅でゆっくり着替えて、自分の体型に合わせて切れば良いだけですから楽ちんです。
義肢・装具を付けていたり脚長差がある場合でも、お店の人に気を使わずに、自宅でゆっくり微調整しながら裾上げができます。
大きいトートバッグ
障害者の方々が外出する際には、医療用具や着替えや生活用品が必要になります。
失禁の可能性がある方なら、替えの下着やおむつ・リハビリパンツなども持って出なくてはいけません。
疾患によっては簡単な食料や水分補給用の水筒、ウェットティッシュなどが必需品になっている方もいらっしゃいますので、必然的に荷物が多くなります。
トレンドファッションである大きいトートバッグなら、たくさんの荷物が入りますので、必要なだけ荷物を詰められますし、持ち手も長いので車椅子の手押しハンドルにも掛けやすいのが便利です。
薄い生地の安いものなら300円ショップに置いてある事もありますし、厚く丈夫な生地のものでも数千円で買えますのでお財布に優しいのです。
それに、今ならどこででも手に入りますので、もし外出先で汚したり破けたりしても、すぐに買い替える事ができます。
スニーカー
スニーカーは、履きやすくできているものが多いですが、特にベルクロの付いたスニーカーは、紐を結ぶ必要がないため、手の巧緻動作が難しい人でも簡単に履くことができます。
スニーカーは軽くて履き心地も良く、足に負担をかけず長時間履いていても疲れにくいという特徴がありますので、特に筋力や麻痺の問題で、足に負担がかかりやすい障害を持つ方にとっては、軽くて快適な履き心地は大きなメリットです。
伸縮性のあるスニーカーは、足の形に合わせてフィットするため、足の麻痺や変形がある人でも履き心地を快適にしますし、義肢・装具を装着している方でも履きやすく、ウェッジが必要な方なら、靴の中にウェッジも入れやすくなっています。
特に、厚底のスニーカーが流行していますので、脚長差がある方はアウトソールの高さを目立ちにくくしてくれます。
これらによって、下肢に制限がある障害者の方でも、より自由な動きやおしゃれなスタイルを実現できます。
雨や雪の日でも履くことができる防水素材のスニーカーも販売されていますので、悪天候でも履き続けることができますから、面倒な洗濯の心配も少なくなります。
ファッションとしてもスニーカーは、カジュアルなスタイルにはもちろん、スポーティーなスタイルや、スーツスタイルにも合わせることができますので、様々な場面でスニーカーを取り入れることができ、自分に合ったファッションを楽しむことができます。
近年では、様々なブランドからスニーカーが販売されていますから、自分に合ったブランドやデザインを選ぶことができ、ファッションの幅も広がります。
明るいカラー
障害者の方々がトレンドファッションとして、オレンジ・レッド・イエロー・グリーン・パープル・メタリックシルバーなどの流行色を取り入れれば、交通事故のリスクを減らすことができます。
トレンドである明るい色のアイテムを選ぶことで、周囲からの視認性が高まり、車や自転車などの車両の運転手が障害者をより早く発見することができ、交通事故の防止に役立ちます。
特に、視覚障害や聴覚障害を持つ方々は、どうしても周囲の状況を判断しにくく、危険な状況に気付くのが遅くなりますので、交通事故などのリスク軽減策として、積極的に取りれて下さい。
トレンドファッションで障害者の心の問題を解決する
次に、トレンドファッションが障害者の方々の心の問題を解決できる理由を解説していきます。
他人とのつながりや共感が得られる
劣等感や自己嫌悪に苦しみ、他人の目に怯えながら、誰にも本心からの苦しみを打ち明けられず孤独と戦っている障害者の方々は少なくありません。
特に、知的障害や発達障害を持つ方々は、障害としてコミュニケーションが苦手な方が多く、周囲とのつながりや共感を持つ事が難しい場合があります。
そんな苦しみを抱えている障害者の方々こそ、トレンドファッションを取り入れて、周囲とのつながりや共感を感じて欲しいのです。
トレンドファッションを取り入れる事で、周囲の人達と関われるきっかけが生まれ、その関わりの中でつながりや共感が得られるようになります。
部屋に閉じこもらずに外出して、周囲の人達とスキンシップを図り、「おしゃれ」だと褒められる事で、つながりや共感を得られれば、「3大幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニン・オキシトシン・ドーパミンという神経伝達物質の分泌が促されます。
外に出て太陽の光を浴びる事でセロトニンが合成され、周囲とのスキンシップを図る事でオキシトシンが放出し、おしゃれだと認めてもらえる事でドーパミンがドバっと出ます。
この3大幸せホルモンのトリプル効果は、心理面だけでなく精神面への良い影響も期待できます。
視覚障害者の方々は、自分自身でファッションを確認する事が難しいため、自分の個性に合ったファッションを選ぶ事が困難です。
しかし、トレンドファッションという周りの人達にも解りやすいおしゃれをする事で、つながりや共感を得やすくなります。
前を向いて進む勇気が持てる
私が関わってきた障害者の方々には、自分の部屋に閉じこもりがちな方々が多くいらしゃいました。
でも、おしゃれをすると誰でも外に出たくなりますよね?
身体の障害の苦しさで外に出るのが辛い方々。
劣等感や自己嫌悪で閉じこもりがちな方々。
そんな苦しみで外に出られない方々でも、おしゃれをする事で外に出たくなる。
そんな気持ちになれるよう、おしゃれを勧めたいのです。
家の中に閉じこもっていても、他人との接点は生まれません。
しかし、外に出れば必然的に他人との接点が多くなりますから、同じセンスのトレンドファッションで共感できる人達とつながりを持てるきっかけが作れるわけです。
共感できる人達とつながりを持てれば、外に出る楽しさや他人と関わる喜びを感じる事ができ、それが自分への自信につながり、前を向いて進む勇気が得られます。
そして、前を向いて進む勇気は、障害者の方々の人生を良い方向に変える力になるのです。
特に、発達障害や知的障害を持つ方々こそ上記で解説したように、つながりや共感を持てるようになることで自信を持てるようになり、その自信が社会参加を促して一歩づつでも前に歩き出せる事に役立つと思っています。
実際に、おしゃれに興味を持った障害者の方のボランティアガイドヘルプとして、一緒に洋服を買いに行った時にこんな経験をしました。
ある時は、社交不安障害があり普段は初対面の人とはなかなか話す事ができない障害者の方が、ショップスタッフの女性が優しく丁寧に対応してくれたおかげで仲良くなって、1時間も話し込む事がありました。
またある時は、広場恐怖症があり外出する機会が極端に少ない障害者の方をお連れした時に、同じ店内にいた他のお客さんがご本人が着ていた洋服を褒めてくださって、それが嬉しくて外出する機会が増えた方もいらっしゃいます。
まとめ
トレンドファッションを取り入れる事が、障害を持つ方々にとって身体にも心にも有益なのはお分かり頂けたかと思います。
トレンドファッションの特徴を活かせば身体の問題を解決できますし、トレンドファッションを通して周りの人達とのつながりや共感を得て、前を向いて進む勇気を持てるようになります。
身体や心に障害を持って、健康な私達では想像もできないような苦しみを抱えながら頑張っている方々はたくさんいらっしゃいます。
私達は、障害を持つ方々が少しでも苦しみから開放されて幸せを感じられるように、日々勉強し自分ができる事を昼夜考え続けています。
障害者の方々のお役に少しでも立てるように、医療の分野や日常生活に必要な全ての事に精通するのは仕事として当然の事ですが、全ての趣味や嗜好の分野にまで精通するのは現実的に不可能なのが歯がゆい思いです。
でも、自分が趣味として詳しく語れる分野が、障害を持つ方々にお役に立てるのであれば、こんな幸せな事はありません。
これからも、医療・介護・福祉の分野を問わず、病気や障害で苦しんでいる方々のお役に立てるようがんばります。


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